消え去った明るい未来

10年程前、彼女と安いアパートで同棲していた。私はフリーターだったが、二つのバイトを掛け持ちして、彼女も週に6日居酒屋で夜中まで。僅かながらの貯金もしながらそれなりの生活は出来ていた。

やがて私の就職が決まり、より安定した生活が出来るようになった。将来のことを考える余裕も出て来た。

そんな中、彼女が「私も就職したい」と言い出した。昼にしっかり働いて、少しでも貯金を増やしたいし、何より2人の時間をちゃんとつくりたい、というのが理由だった。

確かに、私が帰宅する頃に家を出て、私が眠った頃に帰宅する状況は、まぎれもないすれ違い生活だった。

必死に就活を行った彼女は、小さな工場の事務に採用された。通勤に車が必要とのことだったので、2台目の車を購入することに。

奮発して、最新型の軽自動車を新車で購入した。2人で稼ぐのだから金銭的には余裕だと高を括っていたのだ。

一ヶ月程経って、彼女の様子がおかしくなって来た。表情が暗く、笑顔が見られなくなった。常にイライラしているようで、ちょっとしたことで泣きわめく。

どうやら職場での人間関係がうまく行っていないようで、心に傷を負ってしまっていたようだった。

私も自分の仕事の忙しさにかまけて、そんな彼女を放置してしまい、そのせいもあって彼女はとうとう仕事を放棄し、家にこもってしまった。うつ病というやつである。彼女はそのまま退職。

彼女の症状は、私の仕事にも影響を及ぼし始めた。出掛けようとする私を泣きながら引き止め、「自分だけ働くのか」「私が働かないことへ当て付けだろう」とわめく。

仕事中に電話してきて、無言のままただすすり泣く。「早く帰って来て」「仕事と嘘ついて浮気してるんだろう」というメールを延々送り付けて来る。

帰宅すると家出していて、連絡も取れない…そんなことが続き、上司や同僚にも迷惑をかけた。私自身も精神的にやられてしまい、とうとう仕事を辞めてしまった。

2人揃って働けなくなってしまい、車のローンや、それまでに借りていた銀行からの借入・生活費が大きくのしかかって来た。仕方なく2台の車を売り払い、僅かな貯金を切り崩して生活費にあてた。

食費を浮かせるため、実家に忍び込んで食材を持ち出したりもした。少し前まで描いていた明るい未来像は消え去っていた。結局、彼女と何度目かの大げんかの後、別れることになった。

その後就職も決まり、気ままな独身貴族生活に入った。少し寂しい時もあるが、まあ仕方ない。明るい未来は消え去ってしまったが、給与を自分のためだけに使える喜びは、あの苦労があったからこそ、より感じるのだろう。

~naosan33


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